<< August 2019 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< 文鳥様と私 13 / 今 市子 | main | Hello!Japan! >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

スポンサードリンク | - | - | -
ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ / 三上 延
 「二つの顔」と言うサブタイトルの通り、4には表と裏の顔を持った人たちが登場する。

連作短編だった3巻までとは違い、4は1冊まるごと長編。今回は江戸川乱歩を扱っていて、わたしも読んだ事のある作品がいくつか出てきて興味深かった。土曜ワイド劇場とかでドラマ化したのもありましたね。(パノラマ島奇談とか)

姉妹が留守の間にかかってきた一本の電話。大輔が栞子と間違えてしまったほどの声の持ち主は、彼女の母篠川智恵子だった。彼女はうろたえる大輔を他所に人を食ったような受け答えを残すと、一方的に電話を切ってしまう。
…いきなり登場とか驚くにも程があるが、前の巻から予兆はあったのでね。

第1章:「孤島の鬼」
智恵子が現れた翌日、本の生理をしていた栞子と大輔の元に1人の女性がやってくる。珍しい古書に関する相談があると言われ、翌日キシロケイコというその女性の自宅へ二人は向かう。
応対に出た田辺邦代という女性は、キシロケイコの妹だった。彼女の案内で屋敷の主故鹿山明氏の書斎へ通された二人は、膨大な数の江戸川乱歩コレクションを目の当たりにする。
現れた来城慶子は、この部屋にある隠し金庫を開けたいが鍵がなく、しかも暗号によって三重にもロックされている事を明かし、鍵を見つけて暗号を解いて欲しいと栞子に頼む。成功した暁には、この部屋にある乱歩のコレクションを全てビブリア古書堂に売ると言われ、彼女は二つ返事で引き受ける。

第2章:「少年探偵団」
故鹿山明氏の愛人であった来城慶子とその妹邦代の依頼で、栞子と大輔は鹿山氏の家族が住んでいる自宅を訪問する。目的は金庫の鍵を受け取ってくる事だが、息子である義彦は鍵の事はおろか、慶子が住む別宅の存在すら知らなかった。義彦の話から栞子は生前の明氏が二つの顔を使い分けていた事を感じる。
しかし明氏の机からBDバッジが出てきた事から、義彦は小説を読む事をふしだらと決め付けている母の目を盗んで少年探偵団を読んでいた事や、そのバッジを時々持ち出しては妹たちと少年探偵ごっこしていた事を明かす。

義彦の口から妹の直美がヒトリ書房で働いている事を聞いた栞子と大輔は、その足でヒトリ書房へ向かい、直美と対面する。直美もまた母の目を盗み少年探偵団を読んでいた事を認めたものの、父明氏の事になると固く口を閉ざしてしまう。
翌日、ヒトリ書房の店主井上が店にやってくる。意外な訪問者に驚く二人だったが、井上は鹿山明氏と自分の今までの関係を打ち明け、直美が父親に対して持っているわだかまりを解いてやって欲しいと頼む。

井上と栞子の書いたシナリオによって、直美が鹿山の家にやってくる。栞子は彼女の一連の行動から、明氏の部屋のソファに仕掛けがある事を見抜く。果たしてそこには少年探偵団シリーズが隠されていた。そして直美の名が書かれた少年探偵手帳もあった。それは父である明氏が娘・直美にこの書斎で好きなだけ本を読む事を許してくれた何よりの証拠だった。

栞子がソファの中に本と共にあると踏んでいた鍵はなかった。が、鍵は「もう一つの隠し場所」から思わぬ形で発見される。これで後は暗号を解くだけ、と来城慶子の家へ向かった二人はそこで先回りしていた智恵子に出くわす。

第3章:「押絵と旅する男」
智恵子の姿を見た栞子は、その場から逃げるように去ってしまう。が、智恵子は勝手に車に乗り込んで自宅へ付いて来てしまう。文香だけは智恵子の訪問を歓迎するが、栞子は頑なに押し黙ったままだった。が、古い本を開いた途端親子の間に流れる空気が変わるのを、大輔は肌で感じる。
智恵子は暗号文字は自分が調べるので、来城慶子の蔵書の買取を山分けしようと持ちかけるが、当然栞子はその提案を撥ね付ける。智恵子は明氏に関するいくつかのエピソードと暗号へのヒントを話すと、再び去っていった。

智恵子の本当の目的を瞬時に悟った栞子は、大輔と共に鹿山邸へ急ぐ。すでに智恵子は立ち去った後だったが、この家の者が勝手に持ち出していたせいで追求を免れる事になった、暗号を解くために必要な二銭銅貨のレプリカが見つかる。
早速暗号を解き始める栞子だったが、後二文字だけが読めない。そこへ大輔が呟いた一言が大きなヒントに繋がり、ついに暗号が解ける。

智恵子から「金庫の中には「押絵と旅する男」の第一稿が入っている」と聞かされた栞子は、即座にそれを否定した。乱歩は随筆の中で「気に入らないから破ってトイレに捨てた」と記していたからだ。しかし智恵子の大胆な推理も、この人ならば単なる仮説ではないと、密かに思っていたかもしれない。
この辺は残念だけど大輔とは分かち合えない感覚だと思う。新書ではなく古書である事が重要で、作家の息吹を感じられるのは時代を経た古書だけが持つものだろう。この母と娘にはそれをかぎ分ける天賦の才能がある上に、一連の会話を聞いていると、親子である前に「同士」と言う言葉がとてもしっくりくる。智恵子の古書に対する狂気の遺伝子を受け継いだ栞子は、その証拠に原稿を持って消えた来城慶子を追おうと智恵子に言われた時、大輔が戦慄するほどの狂信的な表情を一瞬見せた。
もしビブリア古書堂で大輔が働く事がなかったら、大輔と知り合わなかったら、栞子はいずれ智恵子と同じ道を辿っていたに違いない。大輔と言う存在はある意味「健全」なのだと思う。智恵子のように家族を捨ててまで古書を追い求めるという一見ロマンティックな生き方も、裏を返せばそれは「終わりの無い旅」だ。栞子には店も文香もそして大輔も捨てて、その旅に身を投じる覚悟はまだない。
おそらく智恵子の唯一の誤算は大輔だろう。本に関しては全くの門外漢で人畜無害な男だったはずが、栞子の溢れ出すような古書への情熱と膨大な知識の思わぬ「受け皿」になった。智恵子にも当てはまるけど、人には例え全て理解されなくても聞いてくれる存在が必要なのだと思う。話を聞く事を苦痛に思わない人ならなおの事、聞き手が話し手に好意を持っていたらもう何も言う事はない。
栞子と智恵子の決定的な違いは「理解者」を得た事だけれど、智恵子も栞子という「理解者」を求めている。栞子を巡って大輔はどう智恵子と対峙するのか、この先が楽しみである。

智恵子と栞子。この母娘のたどり着く先にはなにがあるのか。智恵子の夢見る「とんでもない古書」との出会いはあるのか。そして栞子はどちらの生き方を選ぶのか。
時代の流れの中で古書もまた、新しい物語を紡ぎ続けている。

有妃 | 本、雑誌 | - | -
スポンサーサイト
スポンサードリンク | - | - | -